サンボのことを書こうとすると収拾がつかなくて途方に暮れる。そう言い訳しながら、何週間も経ってしまった。

6月半ばの大雨の翌朝に植え込みから見つけた黒い子猫。里親が見つかるまでと、せいぜい数週間のつもりで保護したのが、結局4ヶ月も我が家に住むことになろうとは。

「これは情が移りますよ〜」
捕獲を手伝ってくださった保護猫ボランティアさんの半ば脅すような予言は見事に的中した。

最初は、少々厄介な寄生虫のせいで、先住猫の2匹に伝染らないようにケージごと寝室に隔離。何やら中で鳴き声がするし、日に3度も缶詰の匂いが鼻先を掠めると言って、おーすけとゾロが批難してくる。薬を混ぜた療養食をサンボは貪るように平らげて、見る見る元気になっていった。
おーすけもゾロも保護猫で、我が家に来た時には既に7〜8ヶ月。おまけに大型なので、生後2ヶ月足らずのサンボは初めて本物の子猫だった。

ちっちゃくて、人懐こくて、片時もじっとしていない真っ黒サンボ。めでたく寄生虫の駆除が済んで、リビングデビューを果たすや、大きな兄貴達にもまるで物怖じせず、飛びついて行く。普段は食っちゃ寝していた猫達もサンボに所構わず追い回されて、引き締まった(笑)。

7月、ワクチン接種を済ませてからは知り合いに声をかけ始めたが、候補が浮かんでは消えしている内に8月になり、里親募集の範囲を広げた。
3匹目は飼えないから手放すつもりで保護したのに、最初は膝の上で喉を鳴らすサンボに「おまえは私が産んだんじゃないんだよ」なんて言ってたのに、どんどんウチの子になっていってしまった。

9月末、ちょっとゴタゴタした後に、引き取りたいというお家が見つかった。感じの良い若いご夫婦。実際にサンボを見に来てますます気に入り、トライアルの日程もすんなり決まった。
きっとサンボを可愛がってくれるだろう。私達も嬉しかった…そう思っていた。サンボを届ける日の朝までは。

猛烈な台風が去った次の日。暑い日曜日、予定通りサンボを送り届けた。
キャリーに入れる時も、キャリーから出す時も、私にしがみついて抵抗した。よろしくお願いしますとい言って、一匹分軽くなった帰り道から涙が止まらなくなった。
家に着いて、残り物のパスタで昼ご飯…と次女が、
「あ、サンボ見つけた日も昼パスタだったよねぇ?」…

物が散らかっていようが、ヒモがぶら下がっていようが、飛びついて来ない。書く傍からペン先を舐めに来たり、ピアノの邪魔をされることもない。大人猫のご飯皿を高いところに上げなくて良いし、水の器だってもうひっくり返されない。
気がつくと膝に乗っかってきて、喉を鳴らしながら毛繕いする黒光りする可愛い奴が、目の前からいなくなって一週間の辛かったこと。

甲高い鳴き声はもう聞けない。遊んでボロボロになったフェルトのボールも、囓り取ったモンステラの気根も捨てられず、サンボがいた痕跡を見つけては涙が出る。空っぽのケージも片付けられない。
新しい家で夜鳴きが激しいと聞けば、思わず、鳴き続けて戻っておいで!と念じてしまう。
私も次女も2匹の猫も完全に調子が狂い、一週間文字通り泣き暮らした。

保護猫ボランティアさんはこんな辛いことを何回も、一体どうやって乗り越えているのだろうと聞いてみた。
「別れは辛いけれど、猫が幸せになることで報われるんですよ。寂しさを我慢しなくて良いんですよ。猫も人もみんなで寂しいねって言いながら過ごせば良い。」

一週間後、正式譲渡することになり、書類を渡しに行った。サンボはこの人達会ったこともないといわんばかりに逃げた(笑)。奥さんに抱かれた所を撫でると、ちょっと何か思い出しそうな不思議そうな表情。余程ショックを受けるかと思ったけれど、逆に清々しい気分になった。報われるってこういうことかな。
夜鳴きも収まって、先住猫ちゃんとも仲良くなって、ここを自分の家に決めたんだね。

ちょっと顔が変わったかな?赤ちゃん卒業したんだね。良かったねと話しながら次女と帰途に着いた

今頃になって、行方不明だったおもちゃがポロッと出てくると、いたずら小僧のサンボがウインクしている気がする。